鯖湖の御湯
あかずして 別れし人の 住む里は さはこの見ゆる 山のあなたか 拾遺和歌集 詠み人知れず
世とともに 嘆かしき身を 陸奥の さはこの御湯と いはせてしがな 海人古良集 大納言師氏卿
ながらひて 世々に経りぬる かいし有れば 嬉しさはこの みゆきなりけり 夫木和歌集 光友卿
その昔東北の観光の定番といえば松嶋と飯坂温泉であった。福島驛から鄙びたローカル電車で20分余りである。駅から降りて300Mも歩くと鯖湖神社がある。正岡子規や与謝野晶子の歌碑などもある。この界隈には木造やなまこ壁の旅籠があり 道幅も狭く一番旧い飯坂温泉らしさを残している。最盛期には100軒ほどの大小旅館で賑わったが今はその半分程までに減り昔日の面影は無いのが寂しい限りである。神社の隣が鯖湖の湯だ。道後温泉よりも五年も古い日本最古の木造の共同浴場(平成5年には改築された)と芭蕉も入ったというのが自慢で 駅前にはその銅像まで建てて彼にあやかろうとしているのだが 当時飯塚(当時の呼名)の人達は芭蕉に不親切だったため余り評判が良く無かったようだ。風呂には入ったれけど宿は土間に筵しきで 灯りさえ無く粗末な貧しい家のため 夜になると蚊と虱にさされ その上雷と雨漏りなどで眠られもせず さらに悪い事には持病の痔まで痛み出し翌日も気分が重くて馬を借りてやっと出発した と書いているのです。飯坂の人は未だ彼の俳聖としての江戸での評判を知らなかったのかも知れない。更にここは景行紀110年の御世の日本武尊の東征まで由来するというなんとも壮大な逸話もあるのだが、彼は海路今の原町か石巻辺りまでが定説なので そういうお国自慢も温泉らしいところでしょう。 おくのほそ道 講談社学術文庫 十四 飯塚の里の項には次の一文を載せてみた
・・・・・其の夜飯塚にとまる。温泉(いでゆ)あれば湯に入て宿をかるに、土坐に莚を敷きてあやしき貧家也。灯火もなければ、ゐろりの火かげに寝所をまうけて臥す。夜に入て雷鳴り、雨しきりに降りて、臥せるうえよりもり、蚤・虱にせゝられて眠らず。持病さへおこりて消え入る斗(ばかり)になん。短夜の空もやうゝ明くれば、又旅たちぬ。猶夜の余波(なごり)心すすまず。・・・・ |
福島電鉄飯坂温泉駅前にある芭蕉像
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