比多我多の 磯の和布(わかめ)の 立ち乱え 吾をか待つなも 昨夜(きそ)も今宵(こよい)
                                   万葉集巻14 東歌
いわき市史では「万葉語の比多我多はひさ潟がなまったもので久之浜=久潟に通ずるものがる」とある。東北の湘南とも呼ばれる温暖ないわき市北部の久之浜町と比定されている。遠く筑紫への防人の歌かも知れませんね。帰りたくても帰れない私を待って、「貴女は久之浜の若布が立ち絡まって乱れるなびく気持ちでお前は私を待って居る事だろう、昨夜も今宵も」。人の良い防人が目に浮かびそうだ。久之浜の海岸は現在波立海岸と呼ばれる風光明媚な海水浴場となっている。北から東山道を上れば山が開け、南から東山道を下れば市街地が終え、ともにトンネルをくぐると雄大な太平洋が目の前に開け,地平線が地球は円形であることを証明してくれている、1キロ余りの海岸線である。この鰐が淵の岩や、弁天島、そして大同元年(約805年)徳一大師建立と伝える波立寺と海中から現れた薬師如来を本尊とした薬師堂があり景観に一味添えているのもすばらしい。西行もこの寺と海岸を題材に歌を詠んでいるのもうなずける所だ。お寺として呼ぶ時は「はりゅうじ」 薬師様と呼ぶ時は「はったちやくし」と呼ばれる。また波立海岸ははったち海岸である。
(平成14年5月6日)(参考 いわき市史 いわき市・相馬双葉の歴史 郷土出版社)

   
上 鉄道唱歌
にも歌われた久之浜海岸(ひた潟)

下右  波立寺境内にある万葉歌碑
鉄道唱歌の一節
♪ しばしばくぐるトンネルを 出てはながむ浦の波  岩には休む鴎あり 沖には渡る白帆あり

 ♬ 綴湯本をあとにして ゆくやの駅のそば しるべの札の文字見れば 小名浜までは道一里

♪ 君が八千代の久之浜 許奴美が浦の波近く  おさまる国の平町 並び岡のけしきよし 

♬ 道も背に散る花よりも 世に芳しき名を留めし 八幡太郎が歌のあと 勿来の関もみてゆかん
 
左端 医王山波立寺 薬師寺の裏の樹木は「波立の樹叢」として県の天然記念物に指定されている 南限・北限の照葉樹がみっしりと生い茂っている
                                                   ひた潟