世とともに 恋をしのぶの すり衣  乱れがちなる 我が心かな
                            
 重家集 藤原 重家
しられじな しのぶの衣 ゆきずりの 人目ばかりに 乱れわぶとも
                             
 任ニ集 藤原 家隆
ともしする 宮城が原の した露に 信夫文知摺 乾くよぞなき
                           
千載和歌集 大江 匡房
旅衣 朝たつをのの 露しげみ しぼりもあへず 信夫もちずり
                        
千載和歌集 前大僧正覚忠
きのふ見し 信夫もちずり 誰ならん 心のほどぞ 限り知られぬ
                       
千載和歌集 左京太夫顕輔
宮木野の 雫にかへる かり衣 しのぶもちずり 乱れしぬらし
                          
散木奇歌集 源 俊頼
故郷を しのぶもちずり かぎりなく 思ひみだるる さまを見せばや
                           
清輔集  藤原清輔
わが袖の 忍ぶ文知摺 ぬれぬれて 乱れあひぬる 心地こそすれ
                          
散木奇歌集 源 頼政
君ゆゑに 思い乱だると 知らせばや 心のうちに 信夫文知摺
                        
刑部卿頼輔集 藤原頼輔
  虎女の墓 鄙びたこちらの方が彼女には相応しい
歌に詠まれた信夫文知摺染は残念ながらその織布や製法は伝わっていないのです。上の画像は(財)福島県文化振興事業団 福島県文化財センター白河館が制作したもので、石の上に布を敷き其の上から染料となる草の葉を摺り込むという摺り染の方法で再現したもので白河まほろん館に展示されている物です。布には織の荒い絹を使用し染料にはタデアオイの葉を使ったという 布の模様は石の表面の凸凹や摺る力加減の違いにより同じ模様にはならないという。 それが所謂乱れ染と呼ばれる由縁でしょうか。それにしても現代にも通用する魅力的な染織です。さすが都の高貴なお方で女性の心を掴むに長けた源 融が目をつけた素材ではある。余談ですが面白いのはこの嵯峨源氏融流なる融の末裔に源 綱なる人物がいる。彼は羅生門に夜な夜な出没する鬼を一条戻橋でその片腕を切り取った剛勇をもって知られるあの「渡辺 綱」の方が有名な男だ。
 
渡辺の〜 綱にやりたやァ この片う〜でを 
                 主と添い寝がァ してェみィたァい〜

と云う艶っぽいどどいつもあるくらいなのです。又源頼光とその四天王の一人として大江山の酒呑童子を退治したのは有名な伝承である 彼も融と同じくハンサムな男で有名だったと云う。(参考 白河まほろん館パンフレット まほろん館提供) 
 信夫文知摺 其の3